妥協のない技術創意と対応力で、数々の困難な土木基礎工事を成功へと導いてきた天野工業株式会社。日立建機の開発力に自社の高い技術力を融合させて創り上げた独自の油圧式リーダレス型基礎機械を武器に、今日も地元・北海道で「天野工業にしかできない工事」に挑み続ける。
天野工業の設立は1971年(昭和46年)。1970年(昭和45年)に設立した日立建機と並走するように歴史を重ね、まもなく50周年を迎えようとしている。「ウチの親父(会長)は重機が大好きでね。自分でも乗って“ここの部分、こう(改造)したいな”っていつも考えている人。設計ができるわけではないから、親父が発案したものを日立建機に形にしてもらっていたのよ」。そう語るのは、代表取締役社長・天野久信氏。設計士として建築業界でキャリアを積んだ後、創業者である現会長から経営を受け継いだ。
同社が得意とするのが、狭小地や上空制限のある施工現場で、低空頭機械などを駆使し行う杭打ち工事。メインクライアントである鉄道会社の工事は、線路脇の細い道路や高架下など様々な制限が入り組んだ現場が多く、三点支持式杭打機を導入できない場合が多い。その制限をクリアするために、同社が導入したのが日立建機の油圧式リーダレス型基礎機械(RX2000、RX2300、RX3300)だ。そこへ自社の高い技術力を応用したことで、現場制限をクリアできただけでなく、機械の運搬効率や人員効率も飛躍的に向上したという。「世の中になかったものを作るわけだから大変だっただろうけど、日立建機のみなさんが親身になって対応してくれたおかげで、うまく噛み合ったんだろうね」(天野社長)。
代表取締役社長 天野久信氏
機材センターに並べられているLX70の1型と7型
次の現場に向けてスタンバイ中のRX2000
機材センター 事務所外観
そんな同社の機材センターで、30年以上にわたり大切に使われているのがホイールローダLX70である。もともと、鉄道会社の工事現場などで土砂の運搬やガラの搬出に使われていた同機だが、現在の主な役割は北海道ならではの除雪作業だ。広大なヤードを擁する同社の機材センターは、冬になると人力だけでは処理できないほどの雪が降り積もる。大きな機材が行き来するヤードを空けるために、同機が長年にわたり大量の雪をかき出し続けている。その功績も評価されてか、天野工業では同機の後継機・LX70-7も導入された。同機の進化について、常務取締役・川村稔氏はこう語る。「トルクが上がってる分、粘りがぜんぜん違う。やっぱりこれだけの敷地の雪を集めるとなると押す力が必要だからね。頼もしさは1型より感じるね」。
とはいえ、7型に負けず今でも現役で躍動し続けるLX70。その扱いやすさから、天野社長が車両系建設機械運転技能の資格を取得した際の練習機としても使用されたという。「30年以上あると、そりゃ愛着も湧くよね」(天野社長)。同機は定期的に塗装が施され、新車と見まちがうほどキレイな状態で保たれている。
天野工業の信条は「他社ができないことをやる」。独自の杭打ち技術という強みを生かし、他社と並走することなく別の活路を見出す。「他社と違うことをやるのは結構チャレンジだけどね。チャレンジ精神がないと道は切り開けないから」(天野社長)。その考えは現場にも徹底されており、他なら断る無理難題にも独自の発想で方策を導き出す。「川村さんをはじめ、ウチのスタッフは“できない”とは言わない。どうやったらできるかをとことん考える。これは先代(会長)の時代から続いていることだね」(天野社長)。
天野社長が全幅の信頼を寄せ、土木事業のほぼすべてを託している川村常務は、機械式ショベルU106から日立建機の製品に乗り続けてきた、この道40年以上のキャリアを持つ建設機械のスペシャリストだ。「俺の父親も重機のオペレータをやっていたけど“機械屋(オペレータ)は絶対に現場を止めるな”と徹底的に教え込まれていた。要は現場に対する信用問題。機械が壊れても徹夜で直す。そうやって積み重ねて得られた信頼は絶大なものがある」(川村常務)。
常務取締役 川村稔氏
そんな川村常務が、今までに一番難しかったと答えたのが、札幌市中心部の地下通路工事だ。ガス管や水道管、光ケーブルが複雑に入り組んだ札幌市の幹線に杭を打つ。少しでも管に触れてしまった瞬間、都市機能が停止してしまう恐れもある。そんな状況で、スクリューと管の間がわずかしかない場所を、アースオーガでくりぬいたという。「俺は“このままだと無理だ”とは言うけど“できない”とは絶対言わない。しっかり根拠を添えて、今こういう理由でできないから、ここまでは準備してくれ、そうすれば、あとは責任もって仕事するよ、と相手に示すんだ」(川村常務)。あの手、この手、その手まで提案しながら前進していくのが天野工業の方針だという。
天野社長は、現場に対し常々「技術者一人ひとりが営業マン」という意識付けを徹底している。仕事をください、とお願いするのではなく、与えられた課題に全力で応え、目の前の仕事を完璧にこなすこと。それが最大の営業活動であり、必ず評価につながると確信している。実際、北海道での土木工事では、天野工業以外対応できないという現場も数多く存在すると言われ、ライバルであるはずの同業者からも仕事の紹介を受けることがあるという。
社内には思い出の現場写真が飾られている
天野社長が「会長を超えるアイデアマン」とたたえる川村常務は、自身でアタッチメントを設計し、新たな工法を開発してしまうほど、建設機械に対し熱い情熱を持っている。同氏は40年以上になる日立建機との付き合いをこう振り返った。「高度経済成長期、ショベルの主流が機械式から油圧式へと移り変わり、各メーカが試行錯誤していく時代の中で、一番ユーザの意見を汲み上げてくれたのが日立建機だった。発展的な考え方ができて、鉄の材質も強いし、メカニックの技量も良く、トータルでバランスが取れていた」。しかし、そのバランスも今では少しいびつになってきたように感じるという。
「今の若い人には『職人さん』がいなくなった。昔は現場で機械が壊れたときも、日立建機の担当者に電話で状況を伝えれば、頭の中で想像し修理の手順を教えてくれた。今はそういう人も少なくなったし、それに応えられるオペレータも減った」(川村常務)。
今でも札幌営業所の担当者に同氏から電話が入ると、1時間を超える技術論の応酬が繰り広げられるそうだ。会話は決して一本道では終わらない。何度も枝分かれを繰り返し、その先でようやくひとつのゴールにたどり着く。「安易にオーダに応えると責任保証もあるから、メーカ側が“できない”と言うのは理解できる。でも、なぜできないか、その根拠を明確にすることが大切。できる方法を相談しながら納得できる方向へ向かっていく。すべての課題をクリアしたときに、本当にいいものができるんだから。そういう相談ができるメーカであり続けてほしいし、さらに発展した日立建機が見たい」(川村常務)。日立建機なら絶対できる。そう思うからこそ、時に厳しいことも言うという川村常務。着任当初はタジタジだったという担当者も、今では川村常務に対してときに意見できるほど親交を深めている。「まあ、俺も突っ込まれっぱなしは悔しいから、最後には言い返すけどね(笑)」(川村常務)。
一言「できない」と言ってしまえば終わってしまうことも、妥協せず糸口を探り続けることでたどり着けるゴールがきっとある。技術進歩の道には、かけがえのないユーザの思いが常に寄り添っている。
同社では建築の設計・施工・リフォームも手掛けている
納入年月 | 1989年(平成元年)12月 |
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号機 | 443 |
運転質量 | 6.85t |
定格出力(PS/rpm) | 80/2,200 |
バケット容量 | 1.2m3 |
特徴 | 新たな基軸製品として新規に開発。簡単に思いのまま運転できるホイールローダとして、国産機ではクラス初のHST走行駆動方式を採用。走行時の変速操作不要、掘削時けん引力の自動調整機構、インチングペダルによる積込作業時の容易な速度調整など、先進技術を先駆けて搭載。 |
稼働開始から30年以上とは思えないほど、完璧に近い状態で残るLX70。機械の状態は常に川村常務がチェックしているという。
事業内容 | 低空頭機械仕様杭工事、上空空頭制限杭工事、土留杭工事(鋼矢板打設工事・H鋼杭打設工事)、基礎杭工事(PHC杭・H鋼杭打設工事)、硬質地盤削孔杭工事、PHC杭・H鋼杭・木杭引抜工事、その他各種工事、応用杭工事、作業構台架設・解体工事、山留支保工架設・解体工事 |
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代表者 | 代表取締役社長 天野久信 |
設立 | 1971年(昭和46年)2月1日 |
所在地 | 北海道札幌市東区東苗穂7条3丁目4番7号 |
ホームページ | https://amano-industry.com/ |