「私には日立建機のオレンジが染みついている」UH12-1

「私には日立建機のオレンジが染みついている」UH12-1

建機を訪ねて LEGEND07

Dormer Construction Ltd

過去の栄光を取り戻す長い旅。
憧れの名機に注がれた生涯の情熱。

ピート・ドーマー氏がわずか17歳の時に立ち上げたドーマーコンストラクション社。ニュージーランド カンタベリー地域のさまざまな土木建設プロジェクトに関わり、有力な土木建設プレーヤになっている。ドーマー氏の日立建機の油圧ショベルへの愛情のおかげで、UH12-1は2年間にわたる精力的な復元により、かつてスクラップ寸前だった機械は、過去の栄光を取り戻した。

運命の1台との出会い

ニュージーランドのクライストチャーチ北部、交通量の多い国道沿いを走るドライバーの多くは、緑の垣根の奥に一瞬見えるオレンジ色の建設機械が、信じがたい歴史の一片であることを知らない。
排水設備と土木請負を手掛けるドーマーコンストラクション社の誇りは、日立建機の油圧ショベルUH12-1だ。「日立建機製のエンジンは短期間しか製造されていなかったので、これは非常に珍しい1台です」。そう語るのは、ドーマーコンストラクション社を創業し、UH12-1の所有者でもあるピート・ドーマー氏。同氏は、日立建機製の純正エンジンを備えた同型のショベルでフル稼働できるのは、世界中でこの1台だけであると考えている。
ドーマー氏は日立建機の建設機械に対して、生涯にわたり情熱を注いでいる。その歴史は、同氏が学生時代の休暇中にカンタベリーの請負会社でアルバイトをしていた時代にまでさかのぼる。彼が運転質量30トンのUH12-1を初めて見たのは、アルバイトをしていた会社のひとつであるマーチコンストラクション社。同機は、製造された翌年の1976年(昭和51年)に開かれた国際的な日本製建設機械のエキスポで購入された油圧ショベルだった。「この建設機械はマーチコンストラクション社の車両の中で唯一私が運転することを許されていない1台でしたが、代わりにそのオペレータのアーサー・トッカー氏が運転するのをいつも見ていました。彼はとても有能な油圧ショベルのオペレータで、15,000時間もの操作経験があり“アート”と呼ばれていました。アートは、機械の保守にも非常に気を使い、毎朝燃料タンクから水抜きをしていました。そして、グリースは時々大量に給脂するのではなく、少量を頻繁に給脂する方が良いことも、私に教えてくれました」(ドーマー氏)。

UH12-1の操作レバーを握るピート・ドーマー氏

UH12-1の操作レバーを握るピート・ドーマー氏

輝きを取り戻したUH12-1

約10年前、マーチコンストラクション社がついにこのUH12-1を廃棄しようとしていた時に、その当時すでに独立し会社を経営していたドーマー氏が救出に訪れた。「機械は破損していて、エンジンは動かなくなっていました。私は、このUH12-1を修復しようという思いで引き取りました」(ドーマー氏)。
これが長く、費用のかさむ作業のはじまりだった。ドーマー氏は2年の歳月を費やし、UH12-1をかつての姿へと復活させた。最も難航した問題のひとつが、日立建機製純正エンジンを復元するのに、その部品を見つけることだったという。最終的にエーシーストビーエンジンリコンディショナーズ社のダーク氏と協力して、この困難な作業に対する解決策を見い出した。「元の部品を可能な限り回収し、購入できないその他多くの部品は自分たちで作りました」(ドーマー氏)。
UH12-1の錆びたキャビンは、新しいパネルと塗装で完全に修復され、新品のようになった。「この作業にはたくさんの費用、プライド、そして喜びが注がれています。日立建機が大きな関心を持って支援してくれたので助かりました」(ドーマー氏)。
ドーマー氏は現在、UH12-1への愛情を2人の息子マックスとエドガーに伝えている。息子たちはワクワクしながらキャビンに飛び乗り、父親が油圧ショベルのエンジンをかけて動かすのを一緒に楽しんでいる。彼らは、ドーマー氏が収集している日立建機のビンテージ帽子をかぶって、この油圧ショベルから家を眺めているという。油圧ショベルには「Hitachi」のエンブレムがキラキラと輝き、オリジナルの空圧、油圧、エンジン回転、そして電流の計測器が備わっている。
「この油圧ショベルの特徴は、フットペダルの操作を油圧制御ではなく、空圧で制御する点です」とドーマー氏は語る。主要道路から見えるため、敷地に入って来てUH12-1を見せてほしいと言う人もいるそうだ。ドーマー氏は最近、南に5時間ほど離れた場所で開催されたワナカ建設展にこのショベルを展示した。「UH12-1は唯一の油圧ショベルで、唯一のオレンジ色の機械でした。年配の方々は懐かしく思っていたようで、たくさんの素晴らしい意見を聞くことができました」(ドーマー氏)。
また、廃棄機械の置き場から、さらに古い油圧ショベルを引き取った。「UH06-1とUH03-DTも救出しました。これらもUH12-1と同様に素晴らしいショベルです。古い油圧ショベルをよみがえらせることに、大きなやりがいを感じています」。

マーチコンストラクション社で稼働していた頃のUH12-1

マーチコンストラクション社で稼働していた頃のUH12-1

土木・建設工事への情熱

油圧ショベルと土木工事への憧れは幼少期にまでさかのぼる、とドーマー氏は語る。「5歳の頃から砂場が大好きでした。今は砂場とおもちゃがずっと大きくなり、より高価になっただけですね」。学校を卒業してすぐ、17歳でドーマーコンストラクション社を起業し、25年が経過した。
事業開始から、会社は規模・事業領域ともに大きな成長を続けた。同社は、治水関係を含む土木インフラ事業において、幅広い経験を持っている。同社の土留め工事は、地下施設、ダム、ポンプ施設、排水溝と多様なプロジェクトに対応。困難を極めるさまざまな土質へ挑戦し続け、卓越した排水技術を手に入れた。自治体からも多くの工事を請け負っており、近年ではクライストチャーチ大地震後の市街地復興での緻密な施工運営で大きな貢献を果たしている。
これまでに、約60台の日立建機製油圧ショベルを所有してきたという同社。「最初の5カ月は1台の油圧ショベルを借り、その後十分な資金を貯めて日本へ行き、日立建機の油圧ショベルEX200-5を初めて購入しました。信頼性と生産性では、この業界で日立建機がリーダであると思っています」(ドーマー氏)。
現在、同社は25名の社員を抱え、20台を超える日立建機の油圧ショベルを稼働させている。最新の油圧ショベルはZX225USLCK-5Bだ。「ニュージーランドの経済は堅調です。私たちは、この国全土でパイプラインの敷設工事、大規模な土木工事、建設プロジェクトを完成させ、着実に成長しています」(ドーマー氏)。

いつか、はじまりの地へ

ドーマー氏は自身に「日立建機のオレンジの血が流れている」ことを誇りに思い、日立建機およびケーブルプライス社(ニュージーランドの日立建機グループ会社)との固いパートナーシップに感謝しているという。「事業を始めて以来、ずっとケーブルプライス社と取引をしていますが、彼らはいつも素晴らしいセールスチームと製品で支援してくれます。アンドリュー・マッコイ氏は優れたセールスマンで、彼の知識や我々に対する敬意は、お互いにとって大きな財産となっています」。
UH12-1の修復は困難な作業で、予想以上に長くかかったものの、非常にやりがいのあるものだったと言うドーマー氏。「長期間にわたる作業をやり遂げて、達成感を味わえることは有意義でした。さまざまな展示会で、この油圧ショベルを実稼働する機械として紹介し、クラシックな建設機械のファンにお見せする機会をつくりたいと考えています」。
同氏の究極の夢は、この日立建機の象徴的な機械を、すべてのはじまりの地である日本で紹介することだという。

  • ケーブルプライス社のアンドリュー・マッコイ氏(左)とドーマー氏(右)

    ケーブルプライス社のアンドリュー・マッコイ氏(左)とドーマー氏(右)

  • 日立建機のビンテージ帽子をかぶるドーマー氏とその息子たち

    日立建機のビンテージ帽子をかぶるドーマー氏とその息子たち

TOPIC衛生的で安全な職場をめざして

ドーマーコンストラクション社は、職場の衛生と安全への取り組みが認められ、2015年(平成27年)11月にカンタベリー土木請負業者賞でTri Ex Health and Safety Awardを受賞した。
同社には、プロジェクトマネージャーとマネージングダイレクターが管理するサイトセーフティ管理計画がある。全従業員が職場の衛生と安全に関するトレーニングを受けており、職場内の安全性の確保や危険の特定に努めているという。

UH12-1

製造年 1975年(昭和50年)
運転質量 30t
定格出力(PS/rpm) 200/2,000
バケット容量 0.8~1.4m3
特徴 UH03、UH06に続く油圧ショベル第3弾で、当社初の大型油圧ショベル。クラス最大級の掘削の深さ(7.6m)で、砂利の深堀りに威力を発揮。大出力の自社製エンジンK60ASを搭載。油圧システムは可変容量の2ポンプ2バルブシステム。操作しやすい2本レバーを初めて採用し、操作力低減のために空圧アシストを用いた。
長い年月を経て、現役当時の勇姿をよみがえらせたUH12-1。日立建機製の純正エンジンを備えた同型のショベルで、今もなおフル稼働できるのは、おそらく世界中でこの1台のみだ。

長い年月を経て、現役当時の勇姿をよみがえらせたUH12-1。日立建機製の純正エンジンを備えた同型のショベルで、今もなおフル稼働できるのは、おそらく世界中でこの1台のみだ。

Dormer Construction Ltd

事業内容 パイプライン、土地造成開発を専門とするニュージーランド全域の土木工事
代表者 ピート・ドーマー
設立 1994年(平成6年)
所在地 779 Main North Road, Woodend, Christchurch. NZ
ホームページ https://www.dormer.co.nz
ドーマーコンストラクション社とケーブルプライス社のロケーション

ドーマーコンストラクション社とケーブルプライス社のロケーション