「この2台のおかげで今の小原建設がある」TS09/UH03

「この2台のおかげで今の小原建設がある」TS09/UH03

建機を訪ねて LEGEND08

株式会社小原建設

社員が笑顔で働ける会社を。
時代を超えて託す建機への思い。

産業集積都市として近年発展が進む岩手県北上市。この地で60年以上にわたり土木・建設業を営む株式会社小原建設は、会社と社員の“共存共栄”を社是に掲げている。その思いは、50年以上前に導入したトラクタショベルと、近年導入し続ける最新のICT建機にも託されていた。

国内にほぼ現存しない超レア機

小原建設の社屋前には、同社の創成期を支えた2台のビンテージマシーンがオーバーホールされた状態で展示されている。代表取締役・小原志朗氏と取締役会長・小原満雄氏は当時を懐かしむ。「昔はどのメーカもウチのような小さい会社には割賦販売してくれなくてね。そんな頃に思い切って新車を割賦販売してくれたのが日立建機だった」(小原社長)。「日立建機の機械が稼いでくれたから、今の小原建設がある」(小原会長)。
その最初の1台こそ、トラクタショベルTS09だ。同機は、今や国内にほぼ現存しない超希少な日立製エンジンを搭載している。1967年(昭和42年)に岩手県建設業近代化資金を用いて導入され、八幡平有料道路工事、久慈市宇部/野田間の三陸縦貫鉄道工事、千厩川水門工事などで活躍した。かつて、オペレータとして操作レバーを握っていた同社のOB・石川清一氏はTS09のタフネスぶりを称える。「毎日のように過酷な現場で使っていたけど、一度も大きな故障をしなかった。とにかく丈夫な機械」(石川氏)。

  • 代表取締役 小原志朗氏

    代表取締役 小原志朗氏

  • 取締役会長 小原満雄氏

    取締役会長 小原満雄氏

もう1台のビンテージマシーンは、TS09の後を受け継ぎ1975年(昭和50年)に導入された純国産技術で開発された日本初の油圧ショベルで機械遺産に登録されているUH03。こちらも、国内で現存が確認できる初期のモデルは、同機と日立建機土浦工場に展示されている2台とされている。当時の小原建設は圃場整備がメイン事業だったため、ぬかるみと相性が悪いチェーン式を採用していた日立建機製品は導入を見送られていた。しかし、UH03がその定石を覆したという。石川氏とともに、オペレータとして活躍したOB・齋藤純一氏は「ぬかるみも苦にせず入っていける。乗用車感覚で思うままに運転できた」とUH03の機動性を称賛する。他社メーカの製品で占められていた同社の建設機械は、UH03を皮切りに徐々に日立建機製品へと移り変わっていく。
小原社長は日立建機製品について「派手さはないけど、シンプルで使いやすい。人の手の代わりのように動く」と評価した。「今の建設業界がここまで発展できたのは、重機が進化してきたからこそ。普段は感謝も二の次になってしまうけど、本当に日立建機の功績は大きいと思うよ」(小原社長)。

  • 同社のOBオペレータ 石川清一氏

    同社のOBオペレータ
    石川清一氏

  • 同社のOBオペレータ 齋藤純一氏

    同社のOBオペレータ
    齋藤純一氏

ICTがオペレータの価値を高める

岩手県内でいち早くICT建機を導入し、毎年全社員を対象にICT講習会を実施している小原建設。その理由について、同社の代表取締役専務・小原学氏はこう語る。「一番の目的は作業の安全化と省力化。現場で働く社員が少しでも楽になるのであれば、と思い導入しました」。その思いは、かつて会長・社長がTS09やUH03を導入した経緯とも重なる。社員の負担を軽減できるのであれば、多少お金をかけてでも新しいものを導入する。それが、創業当時から変わらない小原建設の経営スタンスだ。

北上市内で行われたICT建機見学会の様子

北上市内で行われたICT建機見学会の様子

小原専務は、ICT建機の活用により熟練オペレータの価値がより高まったと語る。「腕の良いオペレータは、常に現場の仕上がりを思い描きながら機械を動かしている。ICT建機がそのビジョンを描いてくれれば、オペレータはさらに高い完成度で現場を仕上げられる。機械が想像力をサポートすることで、人のできることがもっともっと広がっていく。それこそがICTを導入する意義」(小原専務)。
同社は、2018年(平成30年)に日立建機と共同でICT建機見学会を開催。ICT先進企業として、地域の建設業の発展を牽引している。

代表取締役専務 小原学氏

代表取締役専務 小原学氏

あの震災から今年で9年

2011年3月11日に発生した東日本大震災。小原社長はあの日見た景色を、今でも鮮明に思い出すという。「津波にのまれてどこが道路だかわからないし、山裾は火事で燃え尽くされていた。さっきまでそこに人が住んでいたとは思えない風景」(小原社長)。
小原建設は地震発生時からいち早く現地に駆けつけ、9年にわたり震災復興支援に取り組み続けている。その中のひとつが、津波によって分断された太平洋沿岸の国道を復旧する三陸沿岸復興道路工事だ。岩手県の南端・陸前高田市から北端・洋野町まで高速道路をつないでいる。
工事には名古屋や京都など、遠方からも多くの建設会社が応援に駆けつけた。「ウチの社員もそうだけど、この道造りに携わった経験はいつか必ず一人ひとりの誇りになる」と小原社長。道路が完成したあかつきには、あらためて家族や恋人と一緒にこの景色を見に来てほしい、と携わった人たちに伝えているという。
小原建設が制作した同社のテレビCMのナレーションには、次のような一節がある。「完成した現場に一人立つとき、あなたのひたむきな努力は一瞬にして報われる。それは未来へ残すものづくり」。2020年度に全線開通を予定している三陸沿岸復興道路。その現場では小原建設の社員が今日も汗を流している。

未来へ残すものづくり

小原建設は、業界の先陣を切るように以前から積極的に働き方改革へ取り組んできた。週休2日制の導入、女性の現場活躍促進、フリーアドレスデスクによる共同作業の促進、ファイル共有アプリを活用した社内情報の整理など、建設機械に限らず社内でもICT技術を駆使し、業務の省力化・効率化を推進している。そこには、業界全体のイメージを少しでも向上させたいという、小原専務の強い思いが込められている。
同社へ入社する以前、小原専務は国家公務員として霞が関で働いていた。当時をこう振り返る。「会社を継ぐために戻ってきたけど、二十数年前の当時、この仕事は世間に軽んじられているというか・・・正直、私自身もあまりカッコいい仕事だとは思っていませんでした」。その思いを一変させたのが、東日本大震災の復興事業だった。「やっぱり自分たちの仕事は世の中に必要なものなんだ、とあらためて気付かされた」(小原専務)。以来、業界全体のイメージや社員の働き方を改善するために、様々な施策へと取り組んできた。先ほどのテレビCMもその一環だ。「働いている社員みんなに、自分たちの仕事がいかに尊いか、まずは私たち経営陣の言葉で伝えてあげたかった」(小原専務)。自身の思いを“それは未来へ残すものづくり”というキャッチコピーに込めた。

産廃中間処理施設で稼働するZX200LC

産廃中間処理施設で稼働するZX200LC

「会社の経営に成功というものがあるとすれば、それは社員一人ひとりがやがて人生を振り返るときに“この会社で働いてよかった”と思ってくれることだと思う。“今の小原建設は俺が立派にしたようなものなんだぞ”と、子どもや孫たちに自慢できるような会社にしてあげたい。そのために、私たちは会社を残し続けなければならない」(小原専務)。
積極的に新卒採用も行っている小原建設は、“本物の技術者を育てる”ことを人材育成のスローガンとしている。「今の若い人たちは安定志向で、公務員や大手ゼネコンを志望する人も多い。だからこそ、私たちはどこでも通用する“本物の技術者”を育てる。将来的にそれが彼らの安定につながりますから」と小原専務。会社の規模拡大は決して求めず、社員のことを第一に、これからも地域を下支えする企業でありたいという。
北上市は大手企業の工場建設などにより、今新たな発展を遂げようとしている。小原建設の未来へ残すものづくりに終わりはない。

同社の社屋前に展示された2台のビンテージマシーン

同社の社屋前に展示された2台のビンテージマシーン

TS09

納入年 1967年(昭和42年)
号機 1535
運転質量 14.3t
定格出力(PS/rpm) 90/1,500
バケット容量 1.5m3
特徴 日立TS09トラクタショベルは、建設機械専用として製作した日立製ディーゼルエンジン“日立B-40”を搭載。強力な掘削力と優れた耐久性をもつトラクタショベル。その軽快な運転操作と高い作業能率は、日立の総合技術により生み出され、あらゆる作業現場で日夜奮闘した。
当時のカタログなどを基に、色も忠実に復元されたTS09とUH03。特に、TS09に搭載された日立製エンジンは、国内にはほぼ残っていない超レアな一品だ。

当時のカタログなどを基に、色も忠実に復元されたTS09とUH03。
特に、TS09に搭載された日立製エンジンは、国内にはほぼ残っていない超レアな一品だ。

UH03

納入年 1975年(昭和50年)
号機 3697
運転質量 9.4t
定格出力(PS/rpm) 58/1,800
バケット容量 0.35m3
特徴 日立UH03は、国産技術で開発した初の油圧ショベルで1965年(昭和40年)に発売。当時主流であった1ポンプ・1バルブシステムから、2ポンプ・2バルブとし、ブーム合流回路を付加。ダンプ積みなどの作業性能を大幅に向上させた。また2本のブームシリンダと「く」の字ブームを採用し、深掘り性能を高めた。UH03の構造は世界の油圧ショベルのデファクトスタンダードとなった。2018年(平成30年)に未来技術遺産として認定。
当時のカタログなどを基に、色も忠実に復元されたTS09とUH03。特に、TS09に搭載された日立製エンジンは、国内にはほぼ残っていない超レアな一品だ。

株式会社小原建設

事業内容 特定建設業(土木、建築、大工、とび・土工、舗装、造園)
代表者 代表取締役 小原志朗
設立 1957年(昭和32年)
所在地 岩手県北上市村崎野15-312-8
ホームページ http://www.obara-c.co.jp