埼玉県久喜市で、古くから地域の土木工事を担う株式会社鈴木工務店。地元の盟主として、ビジネスを超えた使命を果たす同社を、2代にわたり見守ってきたビンテージマシーン・EX100は、令和となった今でもパワフルにバックヤードを支え続けている。
純国産技術による日本初の油圧ショベルとして、未来技術遺産にも登録された日立建機のUH03。鈴木工務店と日立建機の取引も、この1台からスタートした。「他社の油圧ショベルがまだ2本のレバーだけで操作していた頃、UH03は足も使って操作できた。レバーも軽くて使いやすかったね」。そう語るのは、同社の取締役会長・鈴木道男氏。地元・久喜市に根ざし、土木事業でその発展を支えてきた。
同社が主に取り組んできたのが、河川整備・舗装工事・下水道工事などの公共工事。特に久喜市は下水道の整備が早かったこともあり、当時は寝る間も惜しむほど仕事を抱えていたという。そんな時代の苦楽をともにしてきたのが、ビンテージマシーン・EX100だ。「当時は仕事を取りすぎたせいか、もう間に合わせるのに必死でね。毎日夜中まで動かしていたんだけど、それでも全然壊れない。とにかく丈夫だった」(鈴木会長)。実際、EX100の1型はメカニカルな制御が多い機械ということもあり、風雨や洪水にも強く、国内外の中古市場でも人気を博している。
取締役会長 鈴木道男氏
鈴木会長から同社の実質的な経営を引き継いだ代表取締役鈴木宏侍氏は当時の思い出についてこう語る。「昔は日立建機の建設機械のことを“電機屋の機械なんて”とバカにする人もいた。それでもオールマイティで使いやすいし、勾配もしっかり上ってくれる。同時期に入れた他社の製品はとっくに使えなくなったけど、EX100はまだまだ使えますよ」。
同機は現場にこそ出なくなったものの、今でも鈴木工務店の資材置場で積み降ろしの作業などに活用されている。新車時代から鈴木会長自らが隅々まで手入れを施していたこともあり、その動きはいまだに衰えを知らない。鈴木社長が「一生とっておく」と語るほど愛されている同機は、今後さらに全塗装を予定しているという。
代表取締役 鈴木宏侍氏
長年にわたり日立建機製品を使い続ける理由を鈴木社長に尋ねると「今までの担当者さんの努力の賜物でしょうね」と笑いながら答えた。「歴代いろんな人が来てくれたけど、それぞれ個性的で自分の色を活かしていた。もう話すことはないから来るな、って言うぐらい毎日来ていた人もいたね。みんな必要以上に売り込んだりはしなくても、いつの間にか買うような気持ちにさせるんだよ」(鈴木社長)。現在の担当者も、仕事だけではなくプライベートでも交流を深めているという。
2013年(平成25年)、日立建機が久喜市に埼玉東営業所を構える際には、鈴木工務店が場内の舗装工事を担当した。逆に、鈴木工務店の資材置場に置かれた建設機械は、他社製品も含めすべて日立建機にそのメンテナンスを一任されている。さらには、鈴木社長自ら日立建機へ新規顧客を紹介することもあるという。
「立場は違えども志は一緒。日立建機にはいろんなノウハウがあるし、世界を相手にしている分、その辺の情勢についてもたくさん知っているから、聞きたいことはたくさんある。こちらから伝えられることもあるだろうしね。まあ、普段話していることは9割9分が機械以外の話だけど。詳しい内容?ここでは言えないよ(笑)」(鈴木社長)。
EX100の運転席には「毎日清掃」の文字が
会社設立当時から、公共工事をメインに一貫して土木工事一筋で取り組む鈴木工務店。その苦労について鈴木社長に尋ねると、一言「プロセス」と答えた。「みんなは出来上がったものを見て“キレイになったね”とか“大変だったね”と評価してくれるけど、実はそこにたどり着くまでの目に見えない小さな努力が圧倒的に大変」(鈴木社長)。
公共工事は、民間業者が委託する工事と異なり、すべての評価基準が点数として表れる。たとえばISOの取得、働きやすい環境の整備、現場での創意工夫…点数が満たせなければ次の入札にすら参加できない。「そういう目に見えない部分を整えていくのが社長の役割。他の会社がやってからでは遅い。意識的に先駆けていく」(鈴木社長)。業界全体のイメージを一新したいという鈴木社長は、完全週休2日制をはじめパフォーマンスではない実質的な制度改革をすでに進めている。
「公共工事は決してやりやすい仕事ではない。ただ、ウチは民間企業だけど、国や県と同じ役割を果たしているというプライドはある」と語る鈴木社長。特にその思いが強くにじむのが災害対策活動だ。災害発生時、テレビや新聞で報道されるのは、主に自衛隊やボランティアによる支援活動である。しかし、そこには映らない最前線には、全国の土木会社や建設会社が多く携わっている。中でも鈴木社長が思い出深いと語るのが、東日本大震災で発生した久喜市栗橋地区の液状化現象を解消するための地盤改善工事だ。あふれ出てくる水を排出する管を通すために、1日5mしか進まない地道な工事を延々と続ける。2年を費やし、ようやく1kmにわたる工事を完了させた。
大雨や台風がくれば河川のパトロール。雪が降れば除雪作業。地震がくれば地盤のチェック。近年は、鳥インフルエンザやCSF発生時の処理も、鈴木工務店をはじめとした民間企業が行っている。「もちろん商売ですから利益を追求することも大事ですけど、それだけじゃないのかな、と。日立建機と同じように、私たちもエンブレムを背負っているわけですから」(鈴木社長)。
最後に今後の展望を尋ねると、鈴木社長は「現状維持」と答えた。その真意は、もちろん現状に満足しているという意味ではない。変わりゆく土木業界、災害大国・日本の中で、いかに自分たちの役割を果たし、求められる企業であり続けるか。「現状維持が一番難しいんだよ」と鈴木社長。鈴木工務店の“攻める現状維持”はこれからも続く。
EX100と、現在主力として活躍する3機種
腕利きのベテラン社員とともに地元を支えている
鈴木社長が日立建機を選ぶ理由のひとつとして挙げたのが機械のカラーリングだ。「やっぱり色にも好みがある。黄色じゃなくてオレンジってのがいいよね」(鈴木社長)。鈴木工務店で導入される機械には、さらにそこへ同社のコーポレートカラーであるメタリックブルーがプラスされる。オレンジとブルーの鮮やかなツートンカラーは、数ある工事車両の中でも異彩を放ち、そこが同社の施工現場であることがひと目で認識できる。
1台1台が新車のような輝きを保つ同社の機械について、鈴木社長は「一応看板を入れた機械だからね」と語る。「道具を大切にするのは大事。よく営業マンの人が“会社を見るときはトイレを見ろ”って言われるでしょ。あれと一緒。現場の印象も変わるからね」(鈴木社長)。
納入年 | 1990年(平成2年) |
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運転質量 | 10.7t |
定格出力(PS/rpm) | 76/2,300 |
バケット容量 | 0.4m3 |
特徴 | 本格的なグローバルモデルをめざしUHシリーズをフルモデルチェンジ。外観は丸みを帯びたラウンドデザイン採用。UH-7型の油圧システム(OHS)をさらに進化させ、マイコン搭載のコントローラによりエンジンとポンプを同時に制御するE-P制御システムを搭載し、大幅な省エネを実現。油圧パイロット方式の操作系を採用し、オペレータの疲労を軽減(E-P制御は公益社団法人 発明協会主催の全国発明表彰で、発明賞を受賞)。 |
資材置場で現役さながらの動きをするEX100。日立建機でも定期的にメンテナンスを行っているが、その費用総額は新車1台分にも匹敵するほどだという。
事業内容 | 土木工事業、舗装工事業、とび・土工工事業、建築工事業、管工事業 |
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代表者 | 取締役会長 鈴木道男 代表取締役 鈴木宏侍 |
設立 | 1976年(昭和51年) |
所在地 | 埼玉県久喜市除堀1302 |