和歌山県中部に位置し、世界遺産「熊野古道」が通る御坊市。谷口組は、1953年(昭和28年)の創業以来、一貫してこの地に根差し事業を展開している。土木・建築事業を通して地域活性化を担い続ける同社の社訓は“信頼は宝なり”。その言葉は、日立建機との関係性にも重なっていた。
谷口組が創業した1953年(昭和28年)は、和歌山県史上最悪の気象災害 紀州大水害が発生した年である。当時、大工だった先代が、地域復興の一助にと土木工事を請け負ったことから、その歴史がスタートした。「親父(先代)は厳しい人で、中学生の頃から仕事を手伝わされてね。今でもスコップやノコの使い方は若い人にも負ける気がしないよ」そう語るのは会長・谷口邦弘氏。弟の専務・谷口文英氏とともに学生当時から家業を手伝い、同社の発展を支えてきた。
大学で建築を学んだ谷口専務が入社した頃から、同社の主たる事業は建築業へとシフトしていく。「今の新卒の人は信じられないだろうけど、当時は大学を卒業したらすぐに人を使う立場になれと言われていた」(谷口専務)。そんな折、メインの外注業者として仕事を委託していた崎山組を介し日立建機と出会う。「それまでワイヤ式の機械を使っていたけど、崎山組が使っていた日立建機の油圧ショベルを見て“おお、これは良いな”と。それで1979年(昭和54年)にUH02を導入した。実際乗ってみると本当に良くてね」(谷口会長)。
建築の現場で使用される建設機械は、稼働させる土地の制限もあり、車体幅5cmの差が大きな差になる。同じスペックの機械でも、同社ではより小さい方を採用するという。1986年(昭和61年)に導入されたUH025-7は、トラックで運べるコンパクトさと、狭い建設現場での使いやすさが気に入られ重宝された。
代表取締役会長 谷口邦弘氏
同社のオペレータ細田勝久さんは同機についてこう語る。「サイズは小さくても、エンジンが圧倒的に丈夫。長い期間乗っていなくてもパッと一瞬で掛かるイメージ。さすがに足の動きは悪くなったけど、まだまだ使えるでしょう」。建築の基礎工事・整地用として長らく活躍した同機は、現在も資材置場の整地用として稼働中だ。
UH025-7をはじめ、日立建機の製品についてその魅力を尋ねると、谷口専務は一言「ブランド」と答えた。「電化製品も自動車もそうだけど、有名ブランドのものはやはり品質がずば抜けている。名前だけで中身もだいたい想像がつくしね。ウチは物持ちが良い方だけど、故障についてもいらぬ気を使わなくて済むのは大きい。要は信頼感。そういう意味で、建設機械の中では日立建機が一番ということ」(谷口専務)。同社の建設機械は40年以上にわたり、ほぼ日立建機製品のみで統一されている。
オペレータ 細田勝久氏
「日立建機の人は相談しやすいし、無理も聞いてくれるし、点検もしっかりやってくれる」(谷口会長)、「これまでの担当者も人柄が良いし、あいさつの声も大きい」(谷口専務)。40年以上にわたる取引の中で、谷口組と日立建機日本日高営業所は、良好な関係を続けている。
「人も含めてのブランド」と語る専務は、こう続けた。「どの仕事も営業はやっぱり顔を出すことが大事。回数を重ねたらそれだけ面識も増えるしね」。訪ねる理由は“近くに来たから”で構わない。“こんな機械出ましたよ”とパンフレットを持ってきてくれるだけでいい。ともすればうるさく感じてしまいそうな営業訪問も、同社は常に優しく迎えてくれる。
「私たちも人付き合いは大事だと思うから。極端な話、同業他社が人付き合いで私たちの仕事を奪ったとしても納得できるし、私もお客さんだったら同じように選んでいる」(谷口会長)。
専務取締役 谷口文英氏
谷口組の社訓は“信頼は宝なり”。社長の谷口光氏は「ウチは昔ながらの職人気質。常にお客さまが要望している以上のことをやる“プラスワン精神”を心掛け、信頼を得ている」と語る。他の工務店が予算に見合った仕事だけで収めるところを、その範囲を超えてでも丁寧に仕上げるという。
特にこだわるのが工事のスピードだ。納期を守るのは当然として、プラスワンのスピードで応える。その理由について、谷口専務はこう語る。「職人の仕事は“ゆっくり慎重にやる=良い”ではない。大工・左官工・タイル工…いずれもゆっくり慎重にやる人とテキパキ丁寧にやる人を比べると、後者のほうが仕上がりもキレイ。特に雨が多い国で、ゆっくりやって良いことはひとつもない。どんな仕事でも言えることだけど、仕事が早い人は段取りが良いということ」。
これらのプラスワン精神が最も如実に表れるのが基礎工事だ。同社の基礎工事の丁寧さや美しさは、地元の設計士の間でも評判で、実際その声に引き寄せられる形で新しい仕事が舞い込むこともあるという。「一般の人には見えないところだけど、私たちは信頼で仕事をとっているのだから、目に見えない部分こそ大切にする」(谷口専務)。建設機械にも徹底して信頼感を求める同社の思いが、その一言ににじみ出ていた。
社員の約8割が技術者として活躍している
「この街もシャッターの下りた店舗が増え、人も少なくなってきた。会社としても、私自身としても、少しでも地元に貢献したい」。そう語る谷口社長は、毎年夏に御坊市と日高郡の全域で行われる『御博』の実行委員長を務めている。『御博』は、体験交流型プログラムを通して、御坊市と日高郡で暮らす人と、訪れた人の交流を生み出す御坊日高の博覧会だ。プログラムに参加する人だけでなく、提供する人も住む街の魅力を再発見し、地域全体の活性化につなげることを目的としている。
人口減少に加え、御坊市はもうひとつ慢性的な課題を抱えている。地震による津波への対策だ。太平洋に面し、南海トラフ地震発生時には津波による甚大な被害も想定される和歌山県。谷口組が根差す御坊市と日高郡は海抜が低く、過去の南海トラフ沿いで起こった巨大地震では地区全域に津波による被害が記録されている。
そんな中、同社は2019年(令和元年)御坊市津波避難タワー整備事業に携わった。ただ、現在御坊市に設置されている津波避難タワーは、わずかに3基のみ。同じ南海トラフ地震の被害が想定される静岡県などに比べると、県としての対策が圧倒的に遅れている。「近年の台風被害に対応する災害復旧工事もそうだけど、私たちにできることはまだまだある。この街にとって、谷口組が必要な会社だと思ってもらえるようにがんばります」(谷口社長)。
地域を支える企業を建設機械で支えていく。日立建機にできることも、まだまだ残されているはずだ。
代表取締役社長 谷口光氏
パワフルなエンジン音はいまだに健在
2013年(平成25年)に導入された後継機ZX75USBL-3
谷口組が取り組む建築サービスは、企業社屋・店舗・工場・マンション・倉庫などの民間工事から、学校などの公共工事まで多岐に及ぶ。2019年(令和元年)に竣工した和歌山県立南部高等学校実習棟の建築工事も同社が請け負った。
地元の紀州材が全面に使われ、和歌山県下最大の木造建築として注目を集めた同棟。延べ面積1,700m2を超える大型木造建築ゆえに、原木からそのまま柱や梁を切り出すことができず、木材積層など多くの工程を必要とした。資料も限られたため、現場の苦労は絶えなかったという。「木造はかんたんなようで難しい。素材が生きているからね。限られた工期で本当によくがんばった」と谷口専務はスタッフを称えた。
現在、同棟には新鮮な農産物・パン・アイスクリーム等を提供する販売実習室が設置され、地域の方々と生徒たちとのコミュニケーションの場として広く開放されている。
納入年 | 1986年(昭和61年) |
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号機 | 6466 |
運転質量 | 6.5t |
定格出力(PS/rpm) | 53/2,150 |
バケット容量 | 0.25m3 |
特徴 | UH025-7は、3連ギアポンプを組み合わせた独創的な3ポンプ・3バルブ方式のOHS(Optimum hydraulic system)システムにより、6トンクラスの油圧ショベルで初めて走行時の複合操作で直進走行できるようにした。都市土木での利便性を高めるため、側構掘りフロントやブレードなどのアタッチメントを豊富に揃えて1984年(昭和59年)に発売。 |
現場の第一線を退いたUH025-7。現在もエンジンはしっかり可動し、資材置場の整地などに活用されている。
事業内容 | 総合建設業(土木・建築・管・造園・塗装 他)、設計・施工 |
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代表者 | 取締役会長 谷口邦弘 代表取締役 谷口光 専務取締役 谷口文英 |
設立 | 1973年(昭和48年)7月11日 (1953年(昭和28年)8月1日創業) |
所在地 | 和歌山県御坊市湯川町財部698-6 |
ホームページ | https://tan27.com/ |